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関東仮放免者の会「宣言」/賛助会員募集とカンパのおねがい

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Sunday, December 27, 2015

12月10日、日本人・永住者などと結婚した仮放免者に在留特別許可を求める申入れ~夫婦を引き裂かないで!~



  長期収容にも耐えて仮放免となった仮放免者の中には、日本人や永住者などと結婚して日本で家庭を築いた者もいます。関東仮放免者の会の会員の中では約2割がこうした人たちです。

  長期収容によって本人は心身の衰弱に苦しめられました。苦しんだのは本人だけではありません。外で待つ日本人や永住者などの配偶者も、夫婦が引き裂かれた孤独感や不便さに耐え、かつ本人の衰弱を面会や電話などでよくわかって我が事として苦しんできました。さらに、配偶者はしばしば仮放免保証人であるので、仮放免申請のたびに市役所で住民票などを、また会社で在職証明などを請求しなければならず、特に会社からは不審に思われることもありました。子がいる家庭ならばなおさら大変でした。本来、夫婦二人で育てるべきところを一人に負担が集中し、かつ収容されている配偶者のために幼子を連れて面会に動き、仮放免申請のための書類集めもしてと、息つく暇もありませんでした。

  仮放免となっても夫婦の苦難は続きます。仮放免者は国民健康保険の加入が認められないので、病院に行くと高額な医療費がかかります。風邪をひいても虫歯でも、常に一万円単位で医療費が飛んでいきます。経済的に苦しい上に1~2カ月に一度は入管に出頭しなければなりません。東京都在住者は品川、神奈川県在住者は横浜の入管局ですが、埼玉・千葉・茨城・栃木・群馬・山梨・長野・新潟に住む仮放免者も同じ頻度で品川に行かなければなりません。東京でも西多摩在住の仮放免者、さらに北関東や甲信越在住の仮放免者となると交通費も大変です。また、仮放免者は、入管出頭時以外の他県移動時は「一時旅行許可」を入管から得なければなりません。特に県境の市町村に住む人は、ちょっとした用事で県をまたぐことがありますが、仮放免者はその都度、事前に入管局に一時旅行許可を得なければなりません。

  東京入管は、昨年10月以降、こうした結婚のケースの仮放免者宅を訪問調査してきました。その結果としては、主に子がいるケースで在留特別許可(注1)が出ました。私たちの会員やその友人などで、知る限りは30人ほどです。日本人と婚姻し、妻が出産年齢を過ぎているケースでは子がなくても在特が出ました。しかし、30人ほどではあまりに少なく、逆に不許可となった人たちが圧倒的に多数でした。

  今回、被退令(退去強制令書)発付者の再審査を扱う法務省入国管理局審判課に申し入れを行いました。

  申し入れた点は主に二点です。


  1. 夫婦の間に子がないケースも、安定した夫婦関係が認められれば在特を出すこと。妻が出産年齢であっても、夫が仮放免中であれば安心して妊娠・出産することができずにいる。
  2. 消極要素(注2)に過度にこだわらないこと。実際、長期収容にも仮放免生活にも耐える会員の多くは、偽装結婚歴があるなど単純なオーバーステイではない者が多く、帰国して上陸特別許可(注3)を得て戻ってくればよいではないかと入管から指導されても、短期に戻ってこれる見通しが立たない。それゆえ、長期収容、再収容にも耐え、仮放免期間の長期化にも耐えて日本で夫婦生活を継続せざるを得ない。こういった人たちを救済しなければ、同様のケースの仮放免者は増え、仮放免期間は長期化せざるを得ない。


  また、これは仮放免者全体に関係することですが、仮放免期間の長さについても考慮していただきたいと申し入れました。

  申し入れには当事者は遠慮してもらいたいとの事だったので、事務局の支援者と顧問弁護団の指宿弁護士とで申入れをおこないました。

  申し入れ中、当事者夫婦は法務省に向けて、「夫婦一緒の生活を認めてください!」「夫婦を引き裂かないで!」と書かれた横断幕を掲げ、必死の願いを訴えました。





注1)在留特別許可
退去強制手続きにおいて、退去強制対象者に該当するとの認定を受けた外国人は、口頭審理請求、ついで法務大臣に異議申出を行うことができますが、法務大臣は、異議申出に理由がないと判断した場合でも、一定の事由ないし事情が認められる場合には、在留特別許可をすることによってその外国人に在留資格を付与することができます。簡単に言えば、退去強制に理由がある場合であっても、法務大臣は事情を考慮して在留資格を特別に付与することができるという制度です。
制度上、在留特別許可は法務大臣名で付与されますが、実質的には法務省入国管理局の裁決委員会で審査されていました。しかし非正規滞在外国人数が増大する中、全国を八つのブロックに分けた地方入管局の局長に、退去強制令書発付処分を下すか在留特別許可を与えるかの権限が委譲されました。現在、非正規滞在外国人を見つけておこなわれる退去強制手続きでの結果は、地方入管局に委ねられています。しかし、すでに退去強制令書発付処分を受けた被退令発付者について、在留特別許可を出すかどうかの再審査の権限は現在も法務省入国管理局のみにあります。このため、仮放免者の会家族会では、今回、法務省入国管理局に審査基準を緩めるよう申入れをおこないました。



注2)消極要素
2009年7月、法務省入国管理局は「在留特別許可に係るガイドライン」の改訂版において、在留特別許可の許否判断にあたっての「積極要素」と「消極要素」を公表しています。



注3)上陸拒否期間と上陸特別許可

  1. 過去に退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことがない場合の上陸拒否期間は退去強制された日から5年(5年拒否)
  2. 過去に退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことがある場合(「複数回退去強制」いわゆるリピーター)の上陸拒否期間は、退去強制された日から10年(10年拒否)
  3. 日本国または日本国以外の法令に違反して1年以上の懲役または禁錮等に処せられた場合等の上陸拒否期間は無期限(長期拒否)

これに対して、結婚しているなどの事情により上陸特別許可(上特)の制度があります。
今年3月、法務省入国管理局は「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」を公表しました。
そこで例示されているのは、「配偶者が日本人の場合」の5年拒否で、夫婦間の子があるケースで約2年、子がないケースで約3年2月。入管法違反事由については明示されていません。

Sunday, December 13, 2015

【抗議声明】バングラデシュへのチャーター機送還について

2015年12月13日



  11月25日(木)、法務省はバングラデシュにチャーター機を使っての集団送還をおこないました。翌26日の法務省の発表によると、送還されたのはバングラデシュ人22名、23~53歳の男性だとのことです。

  法務省発表は、ジャパン・タイムズ、ロイターなどが報じています。



1.難民を送還、家族分離も

  仮放免者の会としては、本人の意思に反しての無理やりの送還そのものに反対していますが、2013年から法務省がはじめたチャーター機を使っての集団送還については、とりわけ強く反対してきました。集団送還おいては、獲得した予算を消化することが目的化し、チャーター機に乗せる人数をなりふりかまわずに、いわば「かき集める」ことがおこなわれるために、個々の被送還者の個別の事情はますますかえりみられなくなります。チャーター機での集団送還は、個別の送還以上に人権侵害がはなはだしいものになりがちなのです。

  今回の送還においても、日本人の配偶者、永住者の配偶者、また、やはり永住者の配偶者であってそのあいだに子のいるひとも送還されたことが、わたしたちの調査であきらかになっています。これらのケースでは、送還された本人はもとより、その妻や子も、送還によって夫や父親と引き離され、甚大な損害をこうむったことになります。

  また、私たちの調査では、今回も被送還者の多くが、難民審査の異議申し立て棄却を通知された後ただちに送還されたことも判明しています。これは、昨年12月のスリランカ・ベトナムへの集団送還でもみられたやり口で、きわめて問題の大きいものです。その問題性については、以下の記事の「1.法務省発表『難民認定を申請しているケースは含まれていない』について」でくわしく述べているので、そちらも参照してください。

  異議棄却後ただちに送還するというやり口が問題なのは、ひとつにはこれが裁判を受ける権利(日本国憲法第32条)を侵害するものである点です。入管は、今回の送還でも、昨年のスリランカ・ベトナムへの送還と同様、難民申請者の身体を拘束し、弁護士や支援者など外部との連絡をとれない監禁状態において異議申し立て棄却を通知し、行政訴訟を提起するいとまをあたえずに強制送還しています。難民として認定しないという決定は、法務省という、いち行政機関による行政処分にすぎません。不認定処分を受けた者は、当然、これを不服として裁判所にうったえる権利があります。法務省は、不認定処分を受けた人たちが訴訟をおこなうことのできない状態でこれを暴力的に送還することで、かれらの裁判を受ける権利を侵害しました。また、これは、行政機関である法務省による、司法・裁判所に対するいちじるしい軽視、独裁的とも呼ぶべき暴挙であるということも言えます。

  さらに、難民申請者とは、庇護を日本政府にもとめている人たちであって、棄却後であれ、これを送還するのは、かれらを送還先での迫害の危険にさらす行為です。難民認定審査において、難民であることの立証は申請者みずからがおこなわなければなりません。したがって、「難民不認定」とは、申請者がみずからの難民該当性を立証できなかったということにすぎません。難民申請者が審査者を説得できるだけの客観的な材料を示して自身の難民該当性を立証できなかったとしても、だからといって難民該当性や迫害の危険がないとは言えません。論理的に言って、難民申請に対する法務省の「不認定」という決定は、申請者の送還後の迫害の可能性を否定しうるものではまったくないのです。

  しかも、庇護希望者が自身の難民性を立証することの困難さ(迫害があって、あるいはそのおそれがある人が、これを立証するじゅうぶんな物的証拠を用意したうえで出国する、などということが想定できるでしょうか?)、くわえて日本の難民認定率の低さ(2014年度は5000人の申請者に対し、認定されたのはわずか11名です)も考慮しなければなりません。

  UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、「……申請人の説明が信憑性を有すると思われるときは、反対の十分な理由(good reasons to the contrary)がない限り、申請人は灰色の利益(benefit of the doubt)を与えられるべきである」(『難民認定基準ハンドブック』 p.54の196.)としています。つまり、“疑わしきは申請人の利益に”という原則です。これに対して、日本政府は事実上、“疑わしきは認定しない”という姿勢で難民審査にのぞんでおり、このことが認定率のいちじるしい低さの一因になっているのはあきらかです。

  現状でのこのような難民審査の実態をふまえると、行政訴訟ができないように身体を拘束した状態で異議申し立て棄却の通知をおこない、ただちに送還するという、昨年12月にひきつづいて法務省がおこなった集団送還のやり口は、なおさら暴挙と言うよりほかありません。



2.「送還忌避者」とはなにか?

  2013年度に開始されたチャーター機をつかっての集団送還は、今回で4回目になります。
  • 2013年7月6日  フィリピン人75名を送還
  • 2013年12月8日  タイ人46名を送還
  • 2014年12月18日  スリランカ人26名とベトナム人6名を送還
  • 2015年11月25日  バングラデシュ人22名を送還

  これまで175名のひとが、チャーター機によって送還され、その生存や生活の基盤を暴力的に破壊されたことになります。送還されたひとだけでなく、その家族・親族や友人などもまた、かけがえのないものをうばわれた被害者といえます。

  さらに、法務省は、来年度予算の概算要求で「送還忌避者の専属輸送による送還経費」として9,300万円あまりを計上しています。法務省が2013年度および14年度においてチャーター機送還のための予算として獲得したのがそれぞれ3,000万円です(14年度は結果的にこの予算内に経費がおさまらず、1,000万円超過の4,000万円を支出したと法務省は発表しています)。法務省が、この3倍以上の予算の獲得をもくろみ、チャーター機を使ってのいっそう大規模な集団送還をたくらんでいることがわかります。

  法務省は、「送還忌避者」を送還するという名目で、今回のチャーター機送還をおこない、また今年度・来年度以降もこれを継続しようとしているわけですが、そもそもなぜ多数のこの「送還忌避者」が生じているのかという点が重要です。それは、入管政策をふくむ日本政府の外国人政策のゆがみがもたらしたものにほかなりません。

  法務省の言うところの「送還忌避者」が増大している事態は、仮放免者数の増大としてあらわれています。ここで言う仮放免者とは、入管から退去強制令書を発付されながらも、収容を解かれているひとを指します。法務省・入管の側からみると、送還対象であって、原則として送還までのあいだ収容所等に収容することになっているけれども、送還のめどが立たないために「一時的に」収容を解いている者、ということになります。

  全国でのこの仮放免者の人数は、増大しています。2009年7月段階での約1,250名から、2012年10月末段階で約2,600名へと増え、2013年末3000人を越えるにいたります。法務省の公表している最新のデータで3,400名超です(2014年末時点)。

  こうして増大した仮放免者の大多数は、難民申請をしていたり、あるいは日本に家族がいることや長期滞在ですでに日本にしか生活基盤がないために、帰国をこばんでいる人たちです。かれらの多くは、帰るに帰れない事情をかかえて日本での在留をもとめています。昨年末時点で3,400人を超えるにいたったこの仮放免者に、さらに収容中で送還をこばんでいる人をあわせたものが、法務省の言うところの「送還忌避者」の全体ということになります。



3.なぜ「送還忌避者」が増大しているのか?

「送還忌避者」が増大している要因のひとつは、さきにみたような難民認定率のいちじるしい低さ、また、難民申請者がなかなか在留資格をみとめられていないことにあります。

  そして、決定的な要因は、バブル期以来、日本政府がご都合主義的な外国人労働力導入策をとってきたことにあります。この点については、このブログでもくりかえし述べてきました。以下の記事などを参照してください。

  こんにちにいたるまで日本政府は、外国人労働者の受け入れについて「専門的な知識,技術,技能を有する外国人」に限定する政策を、表向きはとってきました。しかし、日本の社会・産業が、いわゆる非熟練労働の担い手としての外国人労働者に大きく依存してきたのは、周知のとおりです。政策においても、この建前に反する状況を追認する、あるいは後押しする措置を、日本政府はとってきたのです。

  ひとつには、非正規滞在の、あるいは短期滞在の資格で在留する外国人が就労することを、日本政府はあきらかに黙認してきたという事実があります。80年代後半から90年代にかけて、当時「3K」(キツイ、キタナイ、キケン)と呼ばれ、日本人の若い労働者が敬遠した職場の深刻な人手不足をうめたのは、これらの外国人労働者でした。かれらに対し、2003年12月、政府の犯罪対策閣僚会議は「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」のなかで、「今後5年間で半減させ」るとの方針を打ち出し、摘発強化に乗り出します。かれらを「不法滞在」状態におきながら安価な労働力として利用するそれまでの政策から、これを徹底的に摘発して追放する政策へと転換したものといえます。

  表向きは非熟練労働について外国人労働者を受け入れないという建前をかかげつつ、事実上、いわば裏口からこれを導入するという政策をとってきたことが、まず問題です。非専門的分野での労働者が必要だというならば、そのための在留資格をもうけたうえで正面から受け入れるべきでした。ところが、日本政府が選択した政策は、非公式的に非正規滞在外国人を労働力として導入しつつ、いざこれを「不要」とする政策判断に転じたときには(日本政府が「不法滞在者」の集中的摘発にのりだす2004年とは、派遣労働の自由化が製造業にもおよんだ年にあたります)、かれらが「不法滞在」状態にあることをよいことに、追い出しにかかる、というものであったわけです。

  2004年にはじまる「不法滞在者の半減5か年計画」、そして2009年の入管法改定を機にますます強引にすすめられた強制送還の執行(これは入管収容所の長期収容と再収容、頻発する無理やり送還としてあらわれ、2010年3月に送還中のガーナ人死亡事件、同年2月と4月に東日本入管センターで連続した被収容者の自殺事件を引き起こします)の結果、「不法滞在者」数は大幅に減ることになりました。この大幅減は、日本人の配偶者など一部の超過滞在者等への在留特別許可による滞在の合法化でもたらされた面もありますが、退去強制令書の発付処分を受けたひとの大半が、帰国あるいは送還に応じたことによっておもにもたらされたものです。

  ところが、こうして「不法滞在者」が減少するいっぽうで、法務省の言うところの「送還忌避者」が増大していくことになったのは、さきにみたとおりです。「送還忌避者」の増大は、現象としてみれば、帰国によって迫害のおそれのある難民や、日本にしかすでに生活基盤のないひとが送還に応じないことで生じているものでもありますが、本質的には、日本政府のご都合主義的な労働政策がまねいた問題と言うべきです。日本政府にしてみれば、一時的な「労働力」として導入するつもりであったのでしょうが、その導入された「労働力」はひとりひとり人間であって、長期にわたって暮らせば、その一定数は定住化がすすみ、「帰国」しようにもそうできなくなるのは当然なのです。



4.失政のツケを外国人に転嫁することはゆるされない

「専門的な知識,技術,技能を有する外国人」以外は労働者として受け入れないという原則を表向きにはかかげつつも、場当たり主義的にその抜け道をつくりだして事実上これを呼び込むという二枚舌政策を、日本政府はとってきました。日系人の「受け入れ」政策と、研修生・技能実習生制度もまた、その一環にあるといえます。

  このような、場当たり主義的、かつ外国人を手段としてのみあつかってその権利尊重をともなわない政策の蓄積が、「送還忌避者」の増大という事態として返ってきているのです。ところが、政府は、こうして自分たちがまねいた失策のツケを、ずうずうしくも外国人に転嫁しようとしています。法務省が、読売新聞などの御用記者に情報をリークして、実習先のむごい処遇にたえかねて逃げ出した技能実習生についてネガティブキャンペーンをおこなっていることは、以下の記事などでも指摘してきました。

  今回のバングラデシュへの集団送還においては私たちは同様の事例を確認していませんが、昨年のチャーター機送還では、「スリランカ・ベトナムへの集団送還について」の「3.人身取引の被害者も送還」で述べたとおり、人身取引被害者である元実習生2名を送還してその権利回復を妨害したという事例すらあります。この2人は、雇用主からの未払い賃金の回収、また、ブローカーからの損害金回収のために法的措置を準備しているところであったにもかかわらず、法務省によって本国に強制送還されてしまったのです。

  技能実習制度が、途上国への技術移転といった制度本来の趣旨からは完全に逸脱した、安価な労働力導入の手段として、日本政府そのものによって脱法的に運用されていることは、さきの記事でも指摘したとおりです。政府みずからが平然と法をふみにじっているのもまったくひどいものですが、実習生の転職の自由がうばわれている点で技能実習制度は実質的に奴隷制度とよぶべきものであって、そのうえ、人身取引の温床にすらなっている実態があるわけです。したがって、実習先から逃げ出した実習生たちの被害回復について、日本政府にも重大な責任があるはずです。ところが、法務省は、彼ら・彼女らについて、マスコミをつかってネガティブ・キャンペーンをしかけて世論誘導をもくろんだうえで、送還によって人身取引業者をアシストして問題隠蔽をはかるということすらやったのです。

  法務省のいう「送還忌避者」という言葉は、もっぱら「送還忌避者」のほうにのみ問題をみいだし、無理やりの送還を正当化しようとするものです。しかし、なぜかくも大勢の「送還忌避者」が生じているのかという背景を、日本政府の外国人政策の経緯からも考えるならば、「送還忌避者」に一方的に責任を転嫁するような一面的な見方はできないはずです。法務省は、送還翌日の報道発表で、今回の被送還者に「不法滞在期間」が27年間にもおよんだ人がふくまれていることをあきらかにしています。こうしたバブル期以来の長期滞在者を日本社会は「不法滞在」という無権利状態のまま利用してきたのだという事実、そしてすくなくとも集中的な摘発方針へと転じた2003年まではこれが黙認されてきたという事実を無視するわけにはいきません。そこには意図的な政策的不作為があったのです。



5.チャーター機による送還は中止すべき

  こうしてみたとき、チャーター機による送還、法務省のいう「送還忌避者の専属輸送による送還」に、正当化できる道理などないことはあきらかです。政府は、仮放免者をはじめとする「送還忌避者」にみずからの政策的なあやまちのツケを負わせるのを、やめるべきです。

  今回バングラデシュに22人を送還するのに法務省は3,500万円の予算をつかったと発表しています。正当性もなく、22人とその家族らの人生をめちゃくちゃにするのに、3,500万円もの国費をつぎこんだわけです。人権・人道の問題について金額で論評するのはふさわしくありませんが、法務省は、この巨額の支出の正当性について、非正規滞在者をふくむ納税者にどう説明するのでしょうか。

  法務省は、今回の送還について、記者会見をひらかず、記者へのレクチャーというかたちで発表をおこないました。あまり堂々と公表したくない事情でもあったのでしょうか。

  前回のスリランカ・ベトナムへの集団送還においては、法務省は記者会見をひらき、「人権に最大限配慮した」「日本に配偶者がいたり、難民認定を申請しているケースは含まれていない」と発表しました。この発表が、かぎりなくウソに近いものであることを、私たちは調査にもとづいて指摘しました。実際には、日本に配偶者と子がいるケースはふくまれていたのです。また、「難民認定を申請しているケースは含まれていない」についても、まったくの虚偽とはいえないものの、意図的に問題を隠蔽し、あるいは小さく見せようとする意図のあきらかな説明でした。

  この姑息なごまかしともいうべき法務省発表の問題については、さきにもリンクした「スリランカ・ベトナムへの集団送還について」でくわしく指摘しておりますので、参照してください。また、前回集団送還における法務省発表と異なる実態について、日弁連への人権救済申立てでも、前回の集団の実態についてあきらかにしています(申立人は、被送還者のうちの3名と、そのうち1名の妻、仮放免者の会の国籍・地域別リーダー8名。代理人は、仮放免者の会顧問弁護士の高橋ひろみ、駒井知会、指宿昭一)。

  今回は法務省は、記者会見すらひらかず、記者へのレクチャーにおいても、記者からの質問に「詳細は言えない」をくりかえすありさまで、家族分離のケースの有無についてもコメントなし、という内容のとぼしいものであったようです。前回の集団送還時のように「人権に最大限配慮した」などとふてぶてしく弁明する余地すら今回はなかったということなのでしょう。

  もはや「送還忌避者の専属輸送による送還」が人権への配慮と両立しえないことはあきらかでしょう。法務省には、今後のチャーター機による送還を中止すること、これまで送還された人から申請があった場合にすみやかに上陸特別許可をみとめることを求めます。

仮放免者の会